借金の時効とは、一定の時間経過に伴って借りている金銭の返済義務が消滅することを指します。
負債を抱える人にとってはこれほどお得なことはないと感じるかもしれませんが、借金の時効が成立するには様々な要件を満たす必要があります。
借金の時効が成立する要件と、認定を受けることの難しさについて解説をします。
借金の時効に代わる負債整理の方法についても触れるので、借金に悩みを抱えている方は是非参考にしてください。
この記事でわかること
- 借金の時効に要する年数は5年あるいは10年
- 年数が経過しても時効の更新がされている可能性がある
- 年数経過後、時効援用の手続きが必要
- 借金の時効以外に債務整理の方法がある
なぜ借金の時効の概念が存在するのか
そもそも借金の時効とは、債権者が一定期間その権利を行使しないことにより、該当の債権そのものが消失してしまうことを指します。
借金の時効は、債権者にとっては貸付金が回収できなくなって大きな損失となってしまう概念です。
しかし、借金の時効は民法に定められており、法的根拠が確かに存在します。
借金の時効の制度が存在する理由・意義については、以下の3要素が考えられています。
- 平穏な現状は保護され維持されるべきという価値観
- 返済したことの証明が困難になる状況を回避する
- 権利行使をせずに放置している場合は現状が優先される
平穏な現状を保護すべきという価値観
厳密に考えると正しい状態ではないとしても、長年平穏な状態が継続してきたのであればその現状を維持すべきという考え方・価値観が存在します。
本来は借金をしているのに返済をしない状態は、正しいといえるものではありません。
しかし、返済をしない状態が長年続くとその上に数々の既成事実が積み重なっていきます。
その出来上がった既成事実を崩してまで、正しい状態に戻す必要はないとする価値観があるため、借金の時効の意義とされています。
返済したことの証明が困難になる状況を回避する
借金の時効の根拠として、正しく返済したにもかかわらずその証明が困難であることによる不利益発生を回避する考え方があります。
借金をした後に期日通りに返済をした場合、返済をしたことの証明書を債権者から受領するのが一般的です。
あるいは銀行振り込みにて返済手続きをした場合は、銀行の振込明細を証明として保管することも多いです。
しかし、時間が経過することでこれらの返済を証明する書類が紛失することも珍しくありません。
長い期間が経過した後に返済をするように督促を受けたとしても、返済をしたことを証明できなくなることもあるでしょう。
このように、借金返済をしたにもかかわらず再び請求を受けてしまう不利益を被らないようにするため、借金の時効が成立するという考え方になります。
権利行使をしないで放置している場合は現状が優先される
債権者が、債権を行使せず放置した状態が長く続くと、権利行使をしない現状が優先されるという考え方があります。
「権利を行使したいのであればすぐに行使しなさい」といった価値観に基づく考え方です。
権利を行使せずに放置しているのであれば、権利を行使しないという事実が優先されて何年も経過してから請求しようとしても認めない考え方です。
借金の時効成立条件の期間は貸主・借主の立場により5年及び10年
借金の時効が成立するための条件期間は、5年あるいは10年です。
5年か10年かを決めるのは、貸主・借主の立場によって決まります。
貸主・借主のどちらかが、商法上の商人に当てはまるかがポイントとなります。
貸金業者・消費者金融が貸主である貸金の時効は会社なら5年・個人なら10年
貸主が消費者金融業者などの貸金業者であった場合、貸金業者が個人か会社かによって時効期間は異なります。
会社である場合は5年、個人であった場合は10年と考えられます。
ただし、借主が業として行う目的で金銭の借り入れを受けた場合は、貸主がどんな立場であっても時効期間は5年となります。
信用金庫が貸主である貸金の時効は原則10年
貸主が信用金庫であった場合は、時効期間は原則10年となります。
信用金庫の行う業務は営利を目的としていないため、信用金庫は商法上の商人に当たらないとするのが一般的な考え方です。
ただし、借主が業として行う目的で金銭の借り入れを受けた場合は、貸主が信用金庫であっても時効期間は5年となります。
銀行が貸主である貸金の時効は原則5年
貸主が銀行であった場合は、時効期間は原則5年になります。
銀行は商法上の商人にあたるため、借主の属性に関係なく原則5年の時効期間が設けられます。
住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)の住宅ローンの時効は原則10年
住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)から住宅ローンの形式で融資を受けた場合の時効期間は、原則10年になります。
住宅金融支援機構の利用は、個人の人が住宅購入用の資金の融資を受ける目的に限定されるため、借主が商人になる事例はありません。
保証協会の求償権の時効は原則10年
保証協会が主な債務者に代わって債務弁済を行なった場合、債務者に対して求償権が発生します。
発生した求償権にも、条件次第で時効が成立します。
時効期間は、保証協会が代位弁済をした時点から10年となります。
しかし、個人事業主や会社からの委託に基づき実行した代位弁済については、求償権の時効期間は5年となります。
借金の時効が成立するには時効援用の手続きにより時効を主張する必要がある
借金の時効が成立するためには、単に所定の年数が経過すればいいわけではありません。
時効成立には、時効援用の手続きを行ない時効の主張をする必要があります。
時効の成立を口頭で主張することには効力がなく、書面で明確に意思表示をしないといけません。
時効成立の意思表示をするための書面が「時効援用通知書」です。
時効援用通知書とは、最低限以下の内容を文面に盛り込む必要があります。
- 時効を援用する日付
- 差出人の情報
- 債権を特定する情報
- 消滅時効を援用する旨
弁護士などに代理を委託している場合は、差出人は委託先になります。
債権を特定する情報としては、以下のような内容を盛り込みます。
- 債権者の名称・本店住所・代表者の氏名(債権者が個人の場合は氏名と住所)
- 債務者の氏名・生年月日・住所・会員番号
- 債権の性質・金額・発生日・最終返済日
内容証明郵便にて時効援用通知書を債権者に送付する
時効援用通知書を作成したら、債権者に対して郵送をします。
郵送する際には、内容証明郵便を利用することをおすすめします。
通常の郵便では、債権者側で受け取っていないと主張された場合に対処ができなくなります。
内容証明郵便を選択したら、書面を送付した年月日及びその内容を第三者である郵便局が証明してくれることになります。
時効援用には専門家に依頼する費用が発生する
時効援用に要する費用としては、仮にすべての手続きを自ら行うとすれば、内容証明郵便料金と書類を用意する金額だけになります。
内容証明郵便料金が1,279円程度であるため、非常に安上がりになります。
しかし実際に時効援用の手続きをする際には、弁護士など専門家に相談する事例が多いです。
相談先によってかかる費用の相場を以下にまとめます。
相談先 | 費用目安 | 注意点 |
---|---|---|
すべて自分で行う | 1,279円(内容証明郵便代) | 書類作成から債権者との交渉まですべて自分で行う必要がある |
行政書士 | 8,000~20,000円程度 | 書類作成の代行しか依頼できない |
司法書士 | 30,000円以上 | 借金の元金が1社につき140万円以下のみ対応可能 |
弁護士 | 40,000円以上 | すべての業務に対応可能 |
借金の時効年数が経過しても時効が成立しないケースがある
借金の時効年数が経過したのち、時効援用手続きによって確実に時効が成立するかというとそうではありません。
知らない間に時効期間がリセットされていたり、猶予期間が設けられている場合があります。
借金の時効期間が経過しても時効が成立しない要因として、代表的なものを2つ紹介します。
- 時効の更新
- 時効の完成猶予
時効の更新により時効年数がリセットされる
時効の更新とは、進行していた時効年月が一旦リセットされてしまう制度です。
借金をしてから4年が経過し、あと1年待てば時効になると思いきや、時効の更新が成立してしまうと再度振出に戻ってしまいます。
時効の更新が成立する要因には以下のようなものがあります。
- 確定判決
- 裁判上の和解等の確定判決と同一の効力を有するものによる権利の確定
- 強制終了等の手続きが申し立ての取り下げまたは法律の規定に従わないことにより取り消されることなく終了した場合
- 相手方が権利を承認した場合
債権者による債権の申し出を裁判所の判決により認定されると、その時点で時効の更新が成立します。
また、資産差し押さえなどの強制執行が実行されて完結した場合には、その完結した時点からの時効更新が成立します。
さらに、債務者側が債務を抱えていることを承認することでも、時効の更新が成立します。
承認とは、例えば債務の一部を返済することも含みます。
また、債務返済の猶予を求める行為も承認とみなされます。
時効の完成猶予により時効成立までの猶予期間が発生する
時効の完成猶予とは、一定の要件を満たすことで時効完成が一定期間先延ばしにされる制度です。
例えば、債権者からの催告が行われた場合には、催告時から6か月間の完成猶予が実現します。
債権者の立場としては、可能な限り債権を回収したいと考えるのが自然です。
時効が成立する前に、時効の更新や時効の完成猶予を満たす行為をするのは一般的な行為です。
借金の時効成立を目指すメリットとデメリットとは
借金の時効成立を目指すことによるメリットとデメリットを以下に、それぞれ3項目ずつ紹介します。
メリット
- 借金の返済義務がなくなる
- 裁判所を介さないため手続きが早く終わることがある
- 時効援用の手続き後信用情報機関の信用情報が消える可能性がある
デメリット
時効が成立していない可能性がある
時効成立までの期間が長い
信用情報機関の信用情報が消えないこともある
借金の返済義務がなくなる
借金の時効が成立することによる最大のメリットは、借金の返済義務がなくなる点です。
時効援用の手続きが完了すると、債権者は債権取り立てをする権利を失うことになります。
借金の返済義務はもちろん、利息の支払いや遅延金の支払い義務も同時に消滅します。
裁判所を介さないため手続きが早く終わることがある
借金の時効成立自体には、5年あるいは10年の時効期間の経過が必要ですが、時効援用手続き自体は少ない手間で完結します。
また、自己破産や個人再生の場合は裁判所とのやり取りが必要で手続きに時間がかかります。
場合によっては半年程度の時間がかかることもありますが、時効の援用手続きは書類を郵送するだけで完結するため、短時間で手続きを終えられます。
時効援用の手続き後信用情報機関の信用情報が消える可能性がある
借金が残っている限り信用情報機関から記録が消えることはありませんが、時効援用の手続きが完結すると信用情報機関が管理する信用情報が消去される可能性があります。
債権者による信用情報機関への報告が必要になる場合があったり、信用情報機関により情報消去のタイミングが違ったりするなど、様々なケースがあります。
そのため、一概に消去されるということではありません。
時効が成立していない可能性がある
借り入れを受けてから5年あるいは10年が経過したことを確認し、時効援用の手続きを取ったとしても、時効が成立しないことがあります。
時効が成立しない要因には、以下のような状況が考えられます。
- 借り入れを受けた時期を誤解していた
- 知らない間に時効の更新が実行されていた
- 時効の完成猶予期間が適用されていた
借り入れを受けた時期や時効の更新及び時効の完成猶予の実行の有無を確認することは、専門的な内容が伴うために困難を伴います。
確実に時効を成立させたい場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談することを検討するのも一つの選択肢です。
時効成立までの期間が長い
時効が成立するには、5年あるいは10年という長い期間を待つ必要があります。
時効期間中、債権者からの督促や債権者による時効更新が実行されないか、常に気を配る必要があります。
時効更新が認定されると、その時点から再び5年あるいは10年の歳月を待たなければなりません。
債権者側が可能な限り債権を取り立てようとするのは当然の対応であるため、時効成立は現実的にはとても難しいと考えておくべきです。
信用情報機関の信用情報が消えないこともある
メリットとして信用情報機関から信用情報が消える点を紹介しましたが、逆に情報が消えない場合もあります。
債権者からの報告がないと情報を消去しないのが一般的であるため、いつまでも情報が残ってしまうことも少なくありません。
信用情報が残ったままの状態では、生活上不便を被ることが多くなります。
クレジットカードが使えなくなったり、住宅ローンの契約ができなくなるなどの制約が生じます。
子供の奨学金の保証人にもなれず、携帯電話の分割購入もできなくなります。
借金の時効成立以外の借金整理には債務整理がある
返済が難しい借金を整理する方法は、借金の時効以外にもあります。
借金の時効以外の借金整理方法の主なものは、債務整理です。
借金の時効は成立させるのが困難であるため、債務整理を選択する方が現実的です。
債務整理には、以下の4種類の手法があります。
- 過払い金請求
- 任意整理
- 個人再生
- 自己破産
過剰な利息支払いの返却を受ける過払い金請求
過払い金請求とは、過去の負債返済において法定の金利より高い利率で利息を支払っていた場合、その過払い部分の利息を債権者に請求する行為です。
以前、借入金にかかる利息利率は出資法と利息制限法の2つの法律により規定されていました。
出資法では年率29.2%、利息制限法では年率15~20%と、それぞれ異なる上限利率を設定していました。
2006年に出資法においても上限利率を利息制限法の規定に統一したことから、年率15~20%以上で支払っていた利息部分は請求することで返却されることとなりました。
債権者と交渉を行う任意整理
任意整理は、債権者との和解ともいえる債務整理方法です。
裁判所を介さず直接債権者と交渉をして、毎月の返済額を減額してもらったり利息金額を軽減してもらう手続きです。
完全に借金は無くせませんが、負担総額を減額できたり返済期限を延長してもらったりなどで、無理のない範囲で計画的に返済できるようになります。
当初の予定通り借金の返済をするのは難しいものの、一定の安定収入があり計画的に返済していける見込みがある方におすすめの債務整理方法です。
裁判所を介し債務を減らしてもらう個人再生
個人再生とは、裁判所を介して手続きを行い債務者の返済負担の軽減と新たな返済計画の立案をする手続きです。
個人再生が認定された後は負債総額が大幅に軽減され、残債を一定期間内に分割で返済することになります。
住まいや自家用車など保有資産を手放すことなく負債の整理ができるという点は大きなメリットです。
しかし完全に負債がなくなるわけではなく、信用情報機関において自己情報として記録されるなどのデメリットがあります。
裁判所を介し支払義務を免除してもらう自己破産
自己破産とは、裁判所に破産を申し立てて免責許可をもらい、すべての借金を無くす手続きです。
負債の支払い義務が完全になくなるため、精神的な負担もなくなります。
自己破産は負債の返済見込みが全く立たない場合におすすめの方法です。
しかし、住まいや自家用車など保有する資産を処分しないといけない点や、手続き後の職業制限がかかる点など多くのデメリットもあります。
債務整理のメリットとデメリットとは
債務整理のどれかを選択する場合のメリットとデメリットについて、以下にそれぞれ2項目ずつ紹介します。
メリットとデメリットを総合的に判断して、自分に合った対処方法を選択しましょう。
メリット
- 借金減額や返済義務の免除を受けられる
- 一時的に取り立てや督促を止められる
デメリット
- 信用情報機関に事故情報が記録される
- 資産を没収される可能性がある
借金減額や返済義務の免除を受けられる
債務整理を実行することで、借金の減額や返済義務の免除を受けられます。
任意整理や個人再生の場合は借金の減額、自己破産の場合は借金を全額免除してもらえます。
返済できる見込みがない借金を抱えてしまった場合に負債額を軽減できるため、借金返済の苦しみから解放されるのは大きなメリットです。
一時的に取り立てや督促を止められる
債務整理の実行により、一時的に債権者からの取り立てや督促を止められます。
債権者の中には、かなり厳しい取り立てを繰り返し行ってくることも少なくありません。
毎日督促におびえて精神的に大きな負担を抱えることも多いでしょう。
個人再生や自己破産を裁判所に申し立てた時点で、債権者は取り立てや督促を直接債務者に実行できなくなるため、ストレスを大幅に軽減できる点は非常に大きなメリットといえるでしょう。
信用情報機関に事故情報が記録される
債務整理を実行することで、信用情報機関に事故情報が記録されてしまいます。
事故情報が記録されると、生活上に大きな制限が課せられます。
クレジットカードの使用及び新規発行はできなくなり、消費者金融や住宅ローンなど新たな借り入れを受けることも不可能になります。
信用情報機関における事故情報は最低でも5年間は継続して残るため、長期的に不便な生活を強いられることになります。
資産を没収される可能性がある
債務整理のうち、自己破産を選択すると保有資産を没収される可能性があります。
特に住まいとして利用している不動産や自家用車など高額の資産はほぼ確実に没収されてしまいます。
それまでの生活スタイルを一変せざるを得なくなるため、自身及び家族に与える影響は大きいです。
しかしすべての資産が没収されるということではなく、必要最低限の家具や電化製品は残るため、生活が送れなくなる心配はありません。
まとめ
借金の時効は、負債を返済する義務から解放されるため債務を整理するうえで非常に有効な手段であることは間違いありません。
しかし、借金の時効が成立することは現実的にかなり困難です。
債権者が簡単に取り立てをあきらめることは少ないため、時効の更新や時効の完成猶予の対策を講じてくるのが一般的でしょう。
時効成立には5年あるいは10年といった非常に長い期間を経過する必要があり、時効の更新が実行されれば再び時効期間が更新されてしまいます。
借金の時効を待つよりも、債務整理など別の手段を講じるほうが現実的な選択であると考える方も多いです。
それぞれの手続きのメリット及びデメリットを総合的に判断して、最も有利な選択をすることが重要です。
債務の整理は専門的な内容を大いに含んでおり自身で判断するのが難しいため、弁護士など専門家に相談することも検討しながら進めましょう。